御柱見聞録 /

御柱は「追い越し禁止」

 一番先に曳かれる「本一」の御柱は最大最重量とあって、曳き子の息が合わないとなかなか進みません。このしわ寄せは後続の柱にモロにかかりますから、最後尾の柱は日が暮れても予定地に達しないことがあります。一般の物見遊山の曳き子は自分の都合でさっさと帰宅しますから、「残された役員がやむを得ずトラクターで引っ張った」という噂も誠しやかに流れます。

「前の柱を追い越してはならない」という不文律があります。以前は木落としが終了した時点で追い越しは自由となったそうですが、中央自動車道が完成し、その下を通過するようになってからは安全面から禁止されました。小さい柱は当然ながら機動力で勝り、宮川まではわずかな距離ということもあって、先頭争いでかなりの混乱を生じたそうです。
御柱のもみ合いを阻止する「世話掛」
役員が暴走を阻止する(なだめる)

 前の柱が一向に進まないと、後に続く御柱の先頭に立つ曳き子は業を煮やし、もたつく前の柱を追い越しにかかることがあります。
 「格」が上の柱はメンツがありますから、最後尾で柱の舵を取る血気盛んな「梃子衆」は当然阻止します。ここで争いが起きると、追い越しにかかった柱の梃子衆が素早く加勢に、といっても曳き綱の長さだけ走って駆けつけます。彼らは梃子棒(という格好の凶器)を持っていますから、それを一斉に打ち鳴らして威嚇します。
 「梃子棒を頭より上に挙げてはならない」つまり剣道の上段のような構えをしてはいけない、という規則があります。そのため、棒を杖をつくように上下させて地面を叩きます。結構な音が響き渡りますから辺り一面は騒然となります。これは「パフォーマンス」とも言えますが、双方ともボルテージが上がって見物人を喜ばせます。

【梃子棒】梃子棒は各区で用意しますが、長さ・太さ・数が決められています。それに通し番号が付き、諏訪大社の焼き印が押されて初めて梃子棒となります。梃子はその日の祭り終了時には必ずチェックされ役員が管理します。

 平成10年には、追い越しに関わる小競り合いがあり負傷者が出ました。警備の消防団や役員が仲裁に入る中で、梃子棒が打ち鳴らされ怒号と笛の音が鳴り響く様は、半分お祭りで予定されたことと言いますが、鼻血を出したり仲間に肩を担がれた梃子衆を目撃すると、一つ間違えれば暴動に発展するのではと思えるほど迫力がありました。
 柱の最前列には、村旗や区旗を持った5人位の「旗持ち」と呼ばれる「目印」がつきます。最前線ですから、小競り合いの中で区旗を奪われそうになったという話も聞きました。


ビデオ(1′15″)

 平成16年はたまたま先頭にいたので、その“一部始終”を見ることができました。やはり前の柱が動かないので、後続の曳き子の間には徐々にイライラ感が募ってきます。先頭は停まっていますが、後方から押される形で車間ならぬ柱間が詰まってきました。
 こうなると、「これが頃合い」と一気に仕掛けます。ラッパ隊が煽ると、双方の梃子衆が応援に駆け付け、対面するとテコを上下に振って地面を叩き威嚇します。テレビカメラも「特ダネを逃さじ」と走ってきました。この時はまだ「お祭り騒ぎ」でしたから、止めに入る警備の消防団も落ち着いたもので、同じ警備の警察官も「恒例のお祭り」と本部に報告していました。
 “残念ながら”、前の柱が動き始めたのでパフォーマンスで終わってしまいました。氏子の皆さんはよく承知していますが、曳行終了時間が迫り余裕がなくなると、(梃子衆は飲酒不可ですが)アルコールの入り具合で紙一重が破られることもあるそうです。