御柱見聞録 /

「華乗り」男の“花柱” (下社の木落とし事情)

 御柱の「木落とし」といえば、その急斜面と距離(と死傷者の数)で下社に一歩譲ります。その御柱の先頭に座る人は、「端・鼻」が語源と思われる「華乗り」と呼ばれ、観衆の注目の的となります。

 華乗りとその後に続く数人の“リザーブシート”を手に入れるには、担当地区への貢献度が物を言います。祭りの準備は勿論のこと、少なくとも6年前から通常の行事にも積極的に参加して顔を売ります。また、「彼なら」と、誰もが納得するまで根回しをする政治力も必要となります。

下社の木落とし
乗っ取られた御柱(平成10年)

 しかし、血の滲むような努力をして手に入れた指定席ですが、その瞬間に、(世間で言うヤクザの)「部外者」がチャッカリ居座ってしまうのを目にすることがあります。狙われるのは最大柱である「秋一(秋宮一之御柱)」です。

 彼らは“玉砕覚悟”で臨んで来ますから、いったん乗っ取ると、御柱にしがみついて動こうとしません。「暴力を使うのは厭(いと)わない」と思わせる相手ですから、力ずくで排除することはできません。「御柱」の方向転換に使うテコはあっても「人間」には使えないので、正に“テコでも動かない”様相になっています。また、民事不介入の原則がありますから、警察を呼ぶわけにもいきません。結局、部外者の実力行使の前には「伝統の決め事」も効かず、涙を飲んで華乗りの座を譲ることになります。
 部外者も、御柱の準備には(世間で言う子分の)若いモンを引き連れて手伝うと聞いています。しかし、「部外者」に対する壁は厚く、最後の手段「御柱ジャック」を行使するしかないのでしょう。

 華乗りを含む柱乗りが幾多の困難を乗り越えて確保した席ですが、柱が回転したり先がめり込む反動で、大概は振り落とされます。
 何とか持ちこたえても、柱が落ちた瞬間から、警備の警察官や消防団が固めているので近づくことができなかった一般の氏子が「暴徒」と化し、先を争って御柱に飛びつきます。
 「そうはさせじ」と専属の「華乗りガードマン」が周囲を固めますが、足場が不安定なのでままになりません。華乗りが、引き吊り下ろされたりパンチを食らったりと、一瞬の天下取りが痣地獄に堕ちることもあります。家庭では善良なお父さんお兄さんが、なぜそうまでして「御柱命」となるのでしょうか。私には理解できません。

 御柱の先端に最終的に座った人が何回もガッツポーズをとる姿に、「木落とし」の全てが集約しています。暴力沙汰を含むこの「男を売る」舞台は見物人には大変な人気ですから、「(危険を承知で乗るのだから)死者が出ないようでは面白くない」という過激な話も出ます。

 平成16年も、華乗りを「部外者と化した氏子」から守る、そろいの原色シャツを着た守備隊は大変でした。暴れる柱の両脇を共に駈け下り、彼を支えたり、スキを狙う「下克上」派を阻止したりと、その危険度は華乗り以上でしょう。蹴る・殴る・足を引っ張るなど、何回も放映するバトルシーンを今回も堪能しました。

平成22年の「華乗り」は…

 平成22年は木落とし坂が改修されたので、比較的スムーズに下まで落ちるようになりました。その中で、「秋四」では「敵ながら、あっぱれ」としか言いようのない光景を目にしました。紺の装束をした若者が御柱とともに駆け下り、加速前の御柱の動きに合わせて、華乗りと二番手の間にサッと跨がってしまいました。この体勢は御柱が停止するまで続きましたが、“後の祟り”を恐れたのでしょうか。御柱が止まると同時に、これもまた減速の勢いを利用したかのように、群がる人を尻目にサッと離れて行きました。

 注目の「秋一」です。直前まで下諏訪町長に乗ってもらう秘策(自衛策)をとりましたが、再びテレビ画面に映ったときは、華乗りは青い「下諏訪町統一ハッピ」を着ていますが、部外者でした。二番手が「本来の華乗り」で、後は(相互の妥協の結果と思われる)交互という順番でした。又聞きの話では、「どうしようもなかった。ハッピを着てくれただけよかった」ということでした。しかし、(お願いして)ハッピを着てもらっても部外者であることは変わりありません。

 ところで、乗っ取られたときは、お舟祭りで有効だった子女を含めた氏子全員による「降りろ」コールはどうでしょうか、と言ってももう終わってしまいましたが…。こんな状態ですから、本来は一番盛り上がる「最後・最大」の木落としですが、曳き子の意気はまったく上がらず、事後にある華乗りのインタビューもなく淡々と終わってしまいました。

 考えてみれば、「乗っ取られる」ということは「スキ」があるということです。このことは“慣例”でわかっていますから、指名を受けて喜んでいるだけではいけません。「戦艦大和の艦長が体を舵輪に縛りつけて船と運命を共にした」ように、事前(乗っ取られる前)に御柱の先頭に縄で縛り付けてもらうだけの覚悟が必要でしょう。上社の氏子から見ると、下社の「部外者」への対応は歯がゆく感じられます。
 以上、“テレビ観戦する部外者”という立場で、「見聞録風の秋一木落とし事情」を紹介しました。

 部外者に乗っ取られた年の「秋一の木落とし写真」は、最大柱という目玉であっても次回の観光宣伝用のポスターには採用されないと聞きました。また、当日のライブ(中継)放送はともかく、編集した「総集編」や各放送局の「御柱特集」では、「秋一」の木落としはカットされていました。

「御柱祭から暴力排除 18機関・団体が下諏訪で決議」28.2.19

 『Nagano Nippo』(長野日報Web版)から、見出しと記事の一部を転載しました。

 諏訪大社大総代会、諏訪大社、諏訪署など諏訪大社御柱祭に関わる18機関・団体が18日、御柱祭への暴力団員や、暴力をするおそれのある者の参加を一切禁止する決議を下諏訪町の下社秋宮参集殿で行った。安全で安心な祭りにする狙いで、曳行(えいこう)などで御柱に乗れるのは、その柱の担当地区の氏子に限るとした。

 県警本部によると、過去の御柱祭では御柱に乗ることが認められない者が木落としや曳行中に柱に乗るなどしトラブルが発生。氏子がけがをしたケースもあったという。

 2011年に制定した県の暴力団排除条例を受け、県警本部と諏訪、茅野、岡谷3署が関係機関・団体に呼び掛け、御柱祭では初めて実施。下諏訪町では下社お舟祭りでも、祭りの進行を妨害する者の排除を決議し、一昨年から2年続けて行っている。…後略

 過去2回のお舟祭りではトラブルもなく進行したので、平成28年の御柱祭は、前述のような行為は見られなくなることが期待できそうです。