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「水眼の清流」水眼川 茅野市前宮 20.2.28

中小路と水眼川
前宮本殿への旧参詣路「中小路」 29.5.17

 前宮を参拝する人が必ず目にするのが、御柱脇を流れる「水眼(すいが)」の清流です。直線距離で約1キロ先の水源から一気に下り、前宮から分かれた一つは「中小路」に沿って小町屋を駈け抜けます。
 私は、「樋沢(ひざわ)川」上流の砂防堰堤まで行ったことがあります。その時の状況から、水眼川は樋沢川から取り込んだ只の小川と信じていました。そのため、手を洗うことはあっても飲んだことはありません。飲用の適不適は別として、前宮を訪れる度に、せせらぎよりやや雄々しい瀬音を四季に重ねて聞いて来ました。

 ホームセンターで、水眼川の水温を確認するため(だけ)に温度計を購入しました。棒温度計の方が正確、も4本並んで表示している室温は2゜のバラツキがあります。規格が±1゜ならいずれも合格品ですが、…迷います。当たり障りのないところで平均値の温度計を選びました。その“曰く付き”の温度計で測ったのが、年間を通じてほぼ13℃、という数値でした。

 最近、高部歴史編纂委員会『高部の文化財』で、水眼川の記述を見つけました。

湧き出るその勢いは誰が名付けたか「水眼」。その勢いに、昔守屋山の水をトンネルでここに引いてきたと言う伝説が生まれた。

 「トンネル」という表現から、“始めチョロチョロ”と連想する水源とは異なるようです。“穴からいきなり大量の水が流れ出ている”となると、もう気になって落ち着きません。春になったら、その「水の眼」を見に行こうと決めました。

「水の眼」

 2月28日は快晴で気温も高めでした。この日は「野出神事」の開始時間を間違えてしまい、いきなり手渡された2時間を持て余していました。出直すには中途半端です。取りあえず前宮本殿でも、と十間廊を後にしました。
 水眼の流れから勢い余ってジャンプした水玉がクリスタルと名を変えて、両岸の緑を厚く包んでいます。すでに昼前とあって、見ているうちにその一葉を包んでいた氷が抜け落ちました。きびすを返して、三之御柱脇にある、ここ前宮での水源に当たる暗渠の出口に近寄ってみました。吹き出すその勢いを見て、そうだ「水の眼」を見に行こうと思い立ちました。幸いにして防雪長靴を履いています。案内板の「水源は1キロ先」に、平地で15分だから山道を加味しても20分と計算しました。

 5日前の雪が轍跡を緩やかな凹みに変えています。少しでも締まっている所を、とそのライン上に足を乗せ続けます。瀬音が左から右へ移り次第に遠のきますが、林道と並行していることが分かります。砂防ダムが立ちはだかると、それを背負ったかのような「山の神」に再会できました。
 「樋沢川から引き込んだのが水眼川」と思っていましたが、瀬音は右の高まりから聞こえてきます。その音に向けて堰堤手前の急斜面を登ります。ラッセルに苦しみながら乗り越すと、何と林道です。先ほど右に分かれていった道でしょう。その林道脇に水眼の流れを見たことで、樋沢とは完全に独立した水系であることが分かりました。
 車道とあって緩やかですが、獣の足跡しか見られない雪は20センチ以上沈み込みます。リズムがとれないために足の筋肉に疲労が蓄積します。

 林道と別れ、水量が全く変わらない水眼川に沿って右の谷へ分け入ります。瀬音をコンパス代わりに、雪がなければ道と思われる凹みを忠実にたどります。しかし、その歩き難さに、何度も「戻ろうか」と挫けそうになります。
 左方からの音だけの川を聞きながら、「通り過ぎればその音が聞こえなくなるはず」「経過時間からそろそろ水源」「その場所には水神と御柱が」と、雪を圧縮しては抜くという行為を繰り返しました。

水眼の水神
雪を被った祠と水眼(下部)

 右側が開け、大きく変わった景観が“上がり”を予感させます。左の尾根上に、葉を落として空が透ける幹の間に太陽が輝きました。ようやく達した光が朧な影絵を作っている沢底に、「あったら写真になる」と雪のキャンバスに漠然と描いていた祠が現実となって現れました。御柱も見え、これは出来過ぎと“一人はしゃぎ”しながら距離を詰めました。
 暗色の川が雪の中に消えているのを確認した安堵と共に、続いていた瀬音も消えていました。間違いなく水眼川の水源でした。

水眼川
水眼川の源

 これが「水眼」です。“目”の幅は30cmでしょうか。露出を穴の奥に合わせたために周囲が明るく写り、上写真のイメージとは異なってしまいました。
 ここから4mほどは小さな池状になっています。そのため、水量は豊富のはずですが、水音がなく流れも感じません。「号泣」より「うるうる」が音のイメージでしょうか。右上隅に写っている「青白の柄」ですが、先端が雪で埋まっているので確認できません。たぶん掃除用のブラシでしょう。

「9月の水眼」 20.9.5

水眼川 水の流れを効果的に、というとシャッタースピードを遅くします。当然マニュアルに切り替えますが、…まだ覚えていません。まー、この暗さでは「オートでマニュアル」になる、とファインダーをのぞきました。予想通り「1/10(秒)」を表示しています。当然手ブレの領域ですが、経験で撮れることがわかっています。もちろん、カメラの手振れ補正があるからです。結果はご覧の通りでした。

水眼の源 前宮から25分ぐらいでしょうか。石の上にしゃがみ込んで水眼()と見つめ合いました。
 ここへ来る道中は上写真のようにかなりの流れと音でしたが、ここでは画面の範囲が池状になっているので、流れも音も感じません。

水眼 ヒシャクが置いてあったので一口含みました。「冷たくておいしい!」と伝えたいのですが、(私には)冷たさは感じませんでした。数値化した水温が13℃と知っている“悲しさ”でしょうか。
 自宅でも八ヶ岳の伏流水が水道ですから、「おいしい」とも思いません。テレビでは、名水や湧き水などを「おいしい」と大げさに声を挙げますが、普段いかにまずい水を飲んでいるかを証明しているようなものです。
 なお、水源からの道中が長いので、前宮附近での飲用は覚悟が必要です。

 宮地直一著『諏訪史 第二巻前編』の補注に、「三澤勝衛氏から『水眼川源泉調査』と題する報告を得たので、次に附載する」とある一文を転載しました。

 水眼川の源泉は、前宮の鎮座する小町屋部落の南南西、釜無山脈の北側に発達している此の附近必従谷(ひつじゅうこく)の一たる水眼川窪の奥、前宮の本殿から約八丁を隔てた地点の谷底にある。此の附近一帯は複輝石安山岩より成り、厚さ約四〇〇米に及ぶが、その厚い安山岩の下底から俄(にわか)に湧出しているのである。昭和四年八月十四日の調査によると
 水量 毎秒約1.5屯 水温(摂氏)10.7 水素イオン濃度 7.1
を示し、水質中性に近く極めて良好である。而してその湧出量も、温度も、恐らく年中不変であろうと考えらるる。次に此水が流下して前宮附近に至ると
 水温(摂氏) 14.8 水素イオン濃度 7.0
となる。則ち温度は途中から稍(やや)高められて来るが、水素イオン濃度にさしたる変化のない点からしても、地表又は浅層の地下水の混入の殆どないものと判断できる。