※このサイトでは、27日に行われる「御射山社祭・八千矛社祭・児宮社祭・国常立命社祭」の総称として御射山祭を用いています。
諏訪大社下社の御射山社は、秋宮から直線距離で約2.5キロ先の山中にあります。狭い林道を経由することもあって、平成24年になるまで、ここで行われる御射山祭の見学をためらっていました。「今年こそ、まだ見ぬ五色の幣をこの目で」と固い決意でいたのですが、衰えることがない残暑の攻勢に当日の朝まで迷っていました。
今日は月曜なので一般の参拝者は少ないはず、と一つのハードルが外されたこともあって、重い“全身”にハッパをかけて行動を起こしました。
延宝七年の『下諏方社例記』から一部を転載しました。
下社の御射山祭で特筆するのは「五色の幣」です。本にある写真は見ていましたが、何せ“モノクロ”の五色です。そこで、神事前のゆったりした時間を活かし、拝礼もそこそこに、案(机)に置かれた実物を観察してみました。
改めて紹介すると、カヤ(萱)の茎に、手前から「カヤの葉(緑)・メギの皮(黄)・ヒノキの皮(赤)・奉書(白)・クリの皮(黒)」を挟んだものが、下社の御射山社だけに供える五色の幣です。写真から想像していた大きさとは異なる“かわいい”幣帛でしたが、よくぞ、この形状・配色を編み出したものだと感心してしまいました。神職の話では、カヤの葉の幅に合わせるのでこの大きさになるのだそうです。
左写真では右上になる五色旗を指して、五大色で「地・水・火・空・風」を表すと説明がありました。居合わせた諏訪大社大総代の中には「神仏混淆」を口する人もいました。
サカキの玉串 同じ案に、諏訪では珍しいサカキ(榊)の玉串が置かれています。通常はソヨゴ(冬青)を用いるので、居合わせた神職に尋ねると「しんしろ(※愛知県新城市)の分社からサカキの奉納があるので使う」ということでした。
国常立命社を除いた三社が、山の斜面に造営されています。下写真ではテントと参集者の後ろ姿が主役になっていますが、前方の林がこの辺りの景観をよく表しているので載せてみました。日が射すことがない凹地とあって提灯に灯りが入っていますが、その電源は発電機でした。また、季節は夏というのに焚き火の炎と煙が絶えないのは、蚊除けと想定してみました。
諏訪大社宮司が右端・祭員の神職が(隠れて見えませんが)左・紫のハッピが諏訪大社下社大総代・白いハッピの6人が「古生会」という陣容で各社の神事を行います。
通常の神事と同じですが、御射山社なので、「宮司、五色の幣を奉りて拝礼」として前述の幣帛(◯)が神前に捧げられます。
限定された撮影場所でしたが、図らずも、テントの支柱に結わえられていたススキが御射山祭らしい雰囲気を醸してくれました。
御射山社と同じ式次第です。
「御神水」の上部で見学していたので、厳粛な神事中でもお構いなく蚊が寄ってくるのに閉口しました。下社の御射山祭には長袖のシャツか必携、と新たな知識を得ました。
修祓や献饌・玉串の手渡しや太鼓・笛の演奏などは、左に控えている神職が執り行います。場所的に、このようなアングルとなりました。
実は、児宮社祭ですべてが終了したと思っていました。ところが、「続いて国常立命社祭を行います」の声で“未知の動き”が予想されたので戸惑いました。宮司を先頭に下っていきますから、どこかに行くのは間違いありません。しかし、他に社殿が無いことは知っています。とりあえず「後に続け」しかありませんから、大総代の最後尾に付きました。下りきると左の道を登って行きます。「国常立命社」の案内板を見て、ようやく別の場所にその社殿があることを理解しました。狭い山道のうえに人数が多いとあって何回か渋滞が起きましたが、およそ10分で、小尾根の一画に孤高を貫くように鎮座している国常立命社の前に勢揃いすることができました。
霧ヶ峰にあった旧御射山社を遙拝する場所に建てられたと思われる社前で、「古生会」の面々が準備をしています。目が届かない別地とあって事前のセットができないのでしょう。行列に先立って白ハッピの人達が案と唐櫃を担いで下っていった理由が、今わかりました。上社の御射山祭は「御射山神戸」区が奉仕するのと同じで、下社では古生会が行うのでしょう。
このシーンは、神事終了後の直会(献杯)です。ここに写っている右の建物が、一部ですがススキで囲った「平成の穂屋」です。神職が参籠する宿泊所で、日中は祈祷受付所に早変わりします。各種の神社グッズはもちろんですが、「名物 御射山餅(あべ川もち)」なども販売します。6個で800円と割高ですが、“付加価値が高い餅”なのでお土産には最適でしょう。
“実は”という言い方も変ですが、昭和12年発行の宮地直一著『諏訪史第二巻後編』にある図版「下社御射山社境内平面図」では、この建物は「神楽殿」になっています。また、写真からも、当時の穂屋は、参道を挟んだ反対側に造られたことがわかります。写真では手前の壇上が相当するでしょうか。
放生池(神池)では「ドジョウを放流」して、数え二才児の厄を流します。しかし、御射山の神事とは別物なので詳細は省きました。
左は、まだ神事開始前の放生池です。記録(メモ)用に撮っておいたものですが、逆光に輝く緑葉が印象的だったので紹介することにしました。