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御曽儀社 諏訪市四賀

御曽儀社参拝 '06.7.9

 太平洋沿岸に停滞している梅雨前線もここ諏訪までは支配できていないようです。晴れに近い高曇りの陽は直射であってもまだ不快感を感じさせず、民家や路傍の花などを眺める余裕があります。そんな小さな扇状地の底から、記憶した地図をなぞりながら山際に向かいます。最上部に当たる民家の道脇で若い男性が草刈りをしています。タイミングよく草刈機の回転を落としたので、少しだけ歩みを早めました。
 御曽儀神社ではなく「御曽儀社」が正しいようですが、いずれにしても読みは自信ありません。取りあえず「みそぎじんじゃ」で問うと、ピンとこないのか聞き直されてしまいました。乏しい情報を付け加えると、「あー、おみせんさま」と指差した先に赤い屋根が見えました。後で仕入れた知識では、地元では「おみせんさまと呼ぶ」とありました。

御曽儀神社 一部竹藪になった山道に入ってすぐ、小さな尾根の先端を削平したかのような、鳥居と御柱と社がやっとという境内がありました。
 「おっ、ワラ葺きじゃないか」も、よく見ると、同じ中空でも肉厚です。麓には荻宮が鎮座していますから、それにあやかった荻(オギ)かも知れません。「五本の鰹木だけが滑らかな仕上げで」と印象もそれまでで、前知識が全く準備できなかった私は「これが御曽儀社か」で終わってしまいました。
 先ほどの男性は、聞いたわけでもないのに「上社が見える」と言い加えました。別の場所でも同じことを聞いたので、御曽儀社の公式(キャッチ)コピーは「上社が見える…」として知れ渡っているのでしょう。上社中興の祖とも言われる大祝・有員(ありかず)を、上社が正面に見えるこの位置を選んで祀ったことがよくわかります。

御曽儀神社から諏訪大社本宮方面 目を凝らすと、(諏訪盆地の西側にあるので)「西山」と呼ばれる山並みから守屋山がわずかに頭を出しています。その山頂からそのまま下へ視線をずらすと、“住宅限界”の上に鳥居らしき白いものが見えます。双眼鏡代わりの高倍率デジカメを向けると、確かに諏訪大社上社本宮の白い鳥居です。「上社が見える」に偽りはありませんでした。
 “あること”を確認しようと、山を背負った御曽儀社を正面にしました。しかし、諏訪大社は左直角の方向で、頭に浮かんだ御曽儀社と上社本宮は対面していません。「それじゃー、どこを向いてるんだ」と、今度は(上写真では)左の見通しが全く利かない尾根の向こうを見つめました。
 上社を右に見る、となると富士見町方向です。大祝有員は御射山社で頓死(急死)したそうですから、この神社を祀った人々が縁の富士見町御射山に向くように社殿を造営したことも考えられます。しかし、何とか関連づけようと絞る頭に、単にここの地形に合わせただけ、との囁きも徐々に大きく…。結局は足長神社の方向と、無難にまとめました。

上社が見える…

本宮が見えた
北鳥居参集殿

 自宅のモニター上で見ると、カメラの目は鳥居をほぼ正面に捕らえていました。
 この鳥居は平成15年に新しく建造されました。諏訪大社の奥に息づく諏訪神社を見つめる私には、「この場所に鳥居は相応しくない」との思いが強いのですが、この様な時は位置が特定できるランドマークとして重宝してしまいます。霞とトンボのシッポ(実はクレーン)が邪魔なので撮り直そうと計画していますが未だにご覧の通りです。

我に躰なし…

 ところで、「みそぎ」と言えば「禊ぎ」と連想するのが一般的です。しかし、諏訪大社の歴史に首を突っ込んだ方なら、諏訪明神が自身の衣を脱いで有員親王に着せ「我に躰なし、祝を以て躰とす」と言い、親王を御衣着祝(みそぎほうり)とした件(くだり)を思い出すでしょう。この神社の麓は古来から「御曽儀平」と呼ばれ、有員親王の館跡があったと伝えられています。

 その後の調べで、「本殿の中に大小3個(最長で15センチ)の石が祀られている」とある記述を見つけ大いに興味をそそられました。しかし、「御曽儀社旧碑」とある写真は縄文時代の石棒ではなく、梵字が刻まれた扁平な石だったので急速に興味を失いました。

 『洲羽事跡考』に「有員の墓の事」の項がありました。

桑原村なる荻の宮は御衣の祝有員王の墓なりと阿部清庸いふ大祝より祀る事有と承る、又此小社人の某太夫いふ家有りと承る今有りやいかにや
諏訪教育会『復刻諏訪史料叢書』

 文中の「有員王の墓」は、「荻の宮」ではなく「御曽儀社」でしょう。某太夫は「籬太夫(まがきたゆう)(時代によって御曽儀太夫)」とわかりますが、「阿部清庸という大祝」は存在しません。何回か読み直して、「阿部清庸言う。大祝より祀る事…」で、「大祝は御曽儀神社を参拝した」と理解できました。

上社が見える '14.11.4

御曽儀神社から諏訪大社上社 自宅から西山を望むと、いつもより解像感が高いことがわかります。「今日しかない」に“その気”が一致して、久しぶりとなる御曽儀神社で上社の写真を撮ってきました。
 しかし、モニター上の写真は、青いセロハン紙を重ねたような色合いであまり芳しくありません。それでも、画像処理を行うとかなり見栄えがよくなりました。「これならば」と、約束の「上社が見える」を載せました。